2015年8月11日火曜日

Bp-Tr. DC power amplifier.


Tr. DC パワーアンプ
No.143+No.139参考、Bp-Tr. DC power amplifier.  (完全対称回路)
(完成:2005年11月5日)



Tr. DCパワーアンプ

初段:2N3954A/カスコード2SC1775A/定電流2SC1775A
2段目:2SA606 (2SA606カスコード付)
ドライブ段:2SC959
終段:2SD217
電源:+50V/±36V (変更なし)

 UHC MOS-FETでなくてもバイポーラTr.でもよい音は得られるのでは? と思い、No.143を改造して作った。古いTr.が完全対称回路によってスピーカの強制ドライブ力を得て絶妙の響きを作る。一方で、熱暴走という暴れ馬がいつ現れるか怖いアンプ。
  



【製作履歴】

2005/9/11

初段:2SK30ATM/カスコード2SC1775A/定電流2SC1775A
2段目:2SA606 (2SA606カスコード付)
ドライブ段:2SC959
終段:2N3055
























テスト用に片Chだけ完成させて音出し。アイドリングは200mA(調整VRが50オームなのでこれ以上増えない。2段目共通エミッタ抵抗は120Ω+270Ωだが、もう少し減らす必要あり)。
温度補償はドライブ段2SC959の片方に200D5A+1S1588パラを付けて初段負荷抵抗と+50Vの間に挿入。DCアンプらしい粘り強い低音で、悪くない音だが高弦がffになるとヒステリックになってしまい聴くに堪えない。終段2N3055がテスト用に安物を使っているので、このせいであってほしい。それともどこかゲインが高すぎるのか。アイドリング電流は安定。終段2N3055はほのかにあったかい程度。

2005/9/17
2段目共通エミッタ抵抗を調整。120Ω+150Ωにしたら、電流計にしていたテスタがいきなり振り切ってテスタ内のヒューズが切れた。VR50Ωを最大にしてもう一度通電すると、トランスがうなりだし2,3秒で止まった。2N3055が上下とも破壊した。過大電流が流れたようだ。入力にショートプラグをし忘れていたのも悪かったかもしれない。
2N3055を交換して、今度は120Ω+240Ωにして慎重にアイドリングを増やしていった。300mAまで増やせるようになった。が、この状態で放置しておいたところ2N3055はかなり熱くなって、300mAを振り切っていた。300mAを超える運転では温度補償がダメ。200mAにすると、温度上昇も少なくて安定している。アイドリングは少なめの運転が良いようだ。
 肝心の音だが、高弦の耳につくような音は幾分和らいだ。(耳が慣れたような気もするのだが)

2005/9/19
初段を2N3954に交換。いろいろとトラぶった。2N3954のピン配列はDSGが左右対称に並んでいない。2SK30などと同じようにDとSに互換性があると思い込んで取り付けてみたのが間違い。最初は問題なさそうに動いたがアイドリングを100mA以上に増やすと急激に流れ出す。発振か。出力オフセットがマイナス電源くらいでるようになったのでどこか壊れた。2段目カスコードの2SA606とベース電圧固定のツェナーがだめ。ドライブ段の2SC959もだめだった。初段が変な動作をすると後段への影響が大きい。大復旧工事をした。2N3954を指定のピン配列どおりにしてやっとまともに動作するようになった。アイドリングは控えめに70mAにセット。
やっと音だし。目が覚めるようなとはいえないが、明らかに高音の成分が変わった。倍音が豊かになった高弦、叫ぶトランペット、割れるようなティンパニ、リアルなスネアドラム。やっぱりメタルキャンがいい。しかし、出力オフセットがどうも不安定。MFBのVRをまわすとスピーカ端子電圧がかなり変化する。どこかおかしい。

2005/9/21
初段を2SK30ATMに戻した。結果、出力オフセットの変動はぴたりととまった。原因は2N3954のゲート漏れ電流に違いない。はずれの2N3954ということか。(この石を使って昔作ったDCアンプが失敗したのはこのせい?) 音は、当然戻った。なんとなく高音がすっきりしない。こんどは初段のカスコードを止めてみようか。

2005/9/24
初段のカスコードをバイパスしてみた。これで2SK30ATMには40V以上がかかっているが、オフセットは安定しており、ゲート漏れ電流は心配ないようだ。音はやや明るくなったが劇的に変わったわけではない。音量が大きくなると無理して鳴っているような感じも受ける。カスコードをつけるかはずすか悩むところだ。

2005/10/1
初段定電流Tr.を2SC1478に交換。なんとなくライブ感が増えた。管楽器のキーを押さえはなす音まで聞こえる。一方で、全体のエネルギー感は減ったように思える。はたしてこれがより良い音なのかわからないのでしばらくこのままで様子見。2SC1478の定格150mWほとんどいっぱいなので電流を少し下げてみよう。

2005/10/8
初段定電流Tr.を2SC1775Aに戻した。やはりこっちのほうが全体的に滑らかでエネルギー感がある。2SC1478は、ざわついて落ち着かない感じだった。

2005/10/9
初段を2SK246BLに交換。(Idssは4.7mA程度のもの。比較的よくそろっていてペア組は簡単だった)。 カスコードははずしたまま。評判どおりゲート漏れ電流は問題ないようだ。 (基盤写真)

2005/10/14
電源遮断式保護回路を導入。DCオフセット発生時にドライブ段以降の±36V供給をカットする。よほどのことがない限りオフセット発生は無いと思うがスピーカを万全に守るためだ。スイッチングにはかつてスピーカを飛ばしてくれた2SK851をあえて使用。ICにはC-MOSでなくTTL(7400)を使った。

回路図


 写真

両chの初段が2SK246になった音はかなり良くなった。より滑らかでかつ響きと奥行きも出ている。使用している半導体の組み合わせも良いのだろう。これでまたいろいろなCDを聞くのが楽しみになった。

アンプ回路図


2005/10/16
ちょっとお休みして6C33C-Bハイブリッドに久しぶりに火を入れた。アンプの音を比較してみるのも大事だろう。音の広がり、ダイナミクスが意外にも負けてはいない。高音の響きの柔らかさはこっちのほうが好みだ。より自然に近いような気がする。きっと生のコンサートホールの音にはこっちのほうが近い。これが真空管の良さなのだろうか。理想の音からはまだ遠い。

2005/10/30
初段を2N3954Aに交換し、ソースのバランス調整VRを50Ωに交換。初段カスコードを復活させた。定電流Tr.のエミッタ抵抗を4.7kΩに交換。これで無信号時のドレイン抵抗の電流は約0.6mAになった。この2N3954AはIdssが1.2mAしかないので前回のときは電流が多すぎたのだ。オフセット電圧は安定している。
2SK246に比べるとおとなしい感じ。(ゲインが減ったせいもあるか) 高弦はきつすぎず倍音が豊かで特にE線の響きがリアル。低音も角がとれて響きが豊かになったような気がする。
 2SK246も表現力があり悪くないのだがちょっとうるさい。しばらくは2N3954Aでいこう。(本当はこの一個\3k近くもする素子を使っていることへの自己満足なのかもしれない)

2005/11/5
終段Tr.を2SD217に交換。古い石ほど音が良いというのは本当だろうか。この石、海外出張のときにあるパーツ屋(半分ジャンク屋)で手に入れたものだ。(実はこの石の入手がこのアンプ製作のきっかけ) 2SA649/2SD218が最高の名器といわれるがこれはその店にもなかった。そのほかにも入手困難なTr.が無いか何回か訪ねたが、唯一この2SD217だけがあった。この石、実は「オーディオDCアンプシステム上巻」に出ている。耐圧が低いがターンテーブル駆動アンプに使えるとある。さらに、負荷がモータでもスピーカでも音の良いTr.は同じと書いてある。ということは、アンプに使っても良い音がするはずだ

回路図



hFE測定比較もしていないが、幸いなことにロットがそろっているせいか、ペア間のバランスは問題なかった。アイドリングは100mAくらい。さて、音は。倍音が緻密。鳴っている楽器が増えて音が交じり合っても団子になりにくくなったのが大きな違い。音場感というかホールの響きも前より出るようになった。Tpのハイトーンが上から降り注ぐ。弦楽合奏では音量を上げると高弦がややうるさい響きをするがこれはCDかプリアンプのせいだろう。総じて音楽表現力は向上した。古い石が音が良いというのは本当だったようだ。

2006/03/05
ある寒い晩、なんとなく音に響きが無いのでアイドリングを確認したら50mAも流れていない。少し、増やした。ところが特に左Chが熱暴走気味になる。アイドリングを控えめに70mAくらいにしていれば問題ないのだが、これを100mAより多くすると2SD217が暖まってきてさらにアイドリングが増えていく傾向がある。やはり2SD217にも熱補償が必要なようだ。どうやって熱補償するか。温度をフィードバックでは、室温が夏と冬でいろいろ変わるときにアイドリング電流も変わるのではないか?アイドリング電流を検出してそれが一定になるような補償ができないか?AOCの回路を応用して2段目共通エミッタのところから電流を抜き出すことを考えたが、回路が複雑になるのであきらめた。
結局、熱補償サーミスタをもうひとつ初段に追加するのが一番シンプルだ。サーミスタにパラ接続するダンプ抵抗は330Ωとした。サーミスタの片面をやすりで削って平らにして2SD217に瞬接でつけたあとエポキシ接着剤を盛った。サーミスタ抵抗追加により2段目2SA606の動作点が変わるのでそれにあわせて共通エミッタ抵抗を増やした(50Ω→75Ω)。アイドリング電流調整のVRもこの際TM-7P(50Ω)に交換した。

回路図


アイドリングを多めに設定しないと追加サーミスタの効果はない。というより、この追加によりアイドリングを多く流せるようになった。冷えた状態からのオン直後は180 mAくらいでそのうち150mAくらいに落ち着いてくる。(室温は10℃位) しばらく大きめの音量で聞いていたが、アイドリングは落ち着いている。一応の成功。これで、室温の変動によって落ち着き先がどう変わるのか気をつける必要がある。季節が変わったらまたチェックしよう。最近、真空管アンプで聞いていたが、やはりスピーカのドライブ力はこのDCアンプの方が優れている。演奏者の表現がよりダイレクトに伝わってくる。(生演奏でなく)スピーカから出る音楽で感動するということはめったに無いことだ。

 2006/04/23
初段の定電流を2SC1400に交換した。入手困難な幻のTr.だがネットオークションでたまたま手に入った(中古品だが)。確かに音は変わった。華やかな明るい音だ。しかし充実したエネルギー感にかける(すこし中高音が荒削り)。しばらく聞いていたがどうしても物足りない。結局2SC1775Aに戻した。滑らかで充実した音がもどった。
気温が上がってきたが2SD217のアイドリングは安定しているようなので増やした。アイドリング電流調整のVRを最小としたところ電源投入時には300 mAだが260mAくらいに落ち着いてくる。電流計測用に入れていた10オームの抵抗は撤去し、天板を置いた。これでこのアンプは完成だ(ろう)。

2006/06/11
室温が25度を超える季節になってきた。長時間鳴らしていると放熱器がかなり温まっている。Tr.に指を触れた感じでは4050度くらいか。最近アイドリングは計っていないが良い音は出続けている。最近、聞く時々によって良くない音に聞こえることがあることに気づいた。それが耳の調子か体調によって変わっているようなのだ。極端な例だが風邪をひいたときに食べ物がおいしく感じないのと似ているのでは。良い音と感じるのは気持ちよく聞こえる時だ。今日のオケ練は新世界よりの初回合わせだったが、帰ってきてCDを大きめに鳴らすとこれが大変よく鳴って聞こえるのだ。和音がよく響く。特に高弦のハイピッチは音量が大きいといつもは耳が痛くなるように聞こえているはずなのだが今日は演奏の輪郭をはっきり作り出している感じに聞こえて気持ちよい。耳に少しフィルタがかかっているのか。

2006/12/31
MFB
VRを取り去ってみた。ついでに終段Tr.のエミッタ抵抗をバイパスした。電流制限回路が働かなくなるが、この半年問題なく稼動してきた実績からして大丈夫だろう。 
電源ON時の出力オフセット電圧が多少出るが問題ないレベルで安定している。エミッタ抵抗をなくした効果は絶大だ。音量を上げたときに高音にまとわりつくような歪っぽい音が少なくなり、滑らか、かつクリアになった。音の分解能もよくなり楽器がより分離して聞こえる。こんな生き生きとした音は初めてだった.... 30分以上鳴らして問題なかったが、再度電源を入れた直後、左Chがバツンとなって保護回路が動作した。上下の終段Tr.が壊れていた。出力オフセット検出による保護回路だけでは終段Tr.は守れない。エミッタ抵抗0.1Ωといえど多少の電流帰還効果があるのだろう。エミッタ抵抗なしではバランスを保てないのか。 エミッタ抵抗をもとに戻して、壊れたTr.2SD218に交換した。アイドリングを計りなおしたが、調整VRが最大でも150mA程度なので少な目。

2007/01/13 終段のエミッタ抵抗をはずしたときの音が忘れられない。再度エミッタ抵抗をバイパスした状態で左Chのアイドリング電流の動きを見る。どうも熱補償がうまくいっていない。特に冷えた状態からスタートすると電流は大きく上昇ししばらくすると低い値に落ち着く。1Aくらいまで跳ね上がって、落ち着く先は100mAそこそこになってしまうのは熱補償が効きすぎなので、終段Tr.のサーミスタにパラに入れているダンプ抵抗330Ωを270Ωに変更した。しかし右Ch330Ωでもスタート時の温度の跳ね上がりは少ない。エミッタ抵抗をバイパスしているのでアイドリング電流を控えめに150200mA程度に抑えていたが、音量を上げたときの高音の歪感が取れないので300mAにすると改善した。これくらいのアイドリングはやはり必要なのだ。右Ch300mAでも熱補償がうまくいっているが、左Chはサーミスタのダンプ抵抗の値に試行錯誤が必要なようだ。真冬なのに最近の室温は朝でも10℃程度である。もっと室温が低いときは、スタート時のアイドリング電流の跳ね上がりに熱補償が追いつく前に暴走してまたTr.を壊すかもしれないという不安がある。しかしどうしてもエミッタ抵抗は取り除きたい。アイドリング電流の異常上昇を検出して保護をかけるしかない。エミッタ抵抗なしで意外と簡単な方法を思いついた。

回路図


2007/03/04
相変わらず左chはスタート時のアイドリング電流の跳ね上がりが大きい。サーミスタの抵抗変化によるアイドリングの電流変化の感度を計ってみたが特に低くはない。熱の伝わりに時間遅れがあるのが原因であろう。サーミスタを新調し、改めてエポキシで固定しなおしたところ改善した。気温17度くらいでスタートするといったん600mAくらいまで上昇するが300mAくらいに落ち着いてくれる。右chと大体同じだ。サーミスタの固定の仕方がこのアンプの鍵だ。

2007/03/20
気温が低いほど最初のアイドリング電流の跳ね上がりのピークが大きいが、安心してスイッチを入れることができるようになった。ところが大音量を出すと保護回路が簡単に作動してしまう。電流だけの制限だけではだめなので保護回路を見直した。電流検出抵抗はコレクタ側に入れたままでTr.のPcを制限する。  無信号時のアイドリング電流制限が1A程度になるように設定した。


回路図


2007/03/24
見直したはずの保護回路だが、フルオケでffになると動作してしまうことがある。シミュレーションしてみると電流検出TrのVbeが0.48Vを超えると保護回路が動作する。検出回路の設定を見直した。

2007/04/29
出力制限保護回路がうまくいったので左CHのテスト用の2N3055から2SD217に交換した。サーミスタをはがして再接着したが温度の伝達が遅いようだ。アイドリング電流がすぐに下がってこない。サーミスタから固まったエポキシを割り取って、改めてエポキシで接着する。両CHが2SD217になった音はやはり違う。ffでも音が混じりにくいのでひずみを少なく感じる。音の広がりも良い。アイドリング電流がじわじわと上がってくるのが気になるところ。今日は気温が高く、25度を越えている。

2007/05/06
バスドラムがffで鳴ると保護回路がやっぱり動作してしまう。もう一度設定を見直した。そもそも使用しているスピーカは公称6Ωであるからこの負荷を考慮すべきであった。しかし常に6Ωというわけではないであろうから、保護設定に余裕を持たせる必要もあるだろう。保護検出TrのVbeに分圧抵抗(R2)を挿入した。このR2はVce-Icグラフ上で保護制限ラインを平行移動させる働きをする。R2が小さいほど保護制限ラインが上に逃げる、つまり保護が効きにくくなる。 5.1kΩで試したところ不足だったので3.6kΩとした。 これで大音量が出せるようになった。


2007/06/16
春が過ぎて気温も高くなってきたのにラックを締め切って鳴らしていたのが悪かった。熱補償が安定していたはずの右chが壊れた。右chの出力リミッター回路は従来のままなのでアイドリング電流増加がリミッターにかかる前にTr.が破壊したようだ。なぜか電源遮断回路の+側の2SK851も破損しており、その被害が左chの+側2SD217にも及んだようだ。
電流遮断回路の+側2SK851のゲート電圧を作るツェナーDiとゲート電圧をスイッチングする2SC1775Aも破損していた。2SK851は入手できないので、オン抵抗が比較的低い(0.01Ω) 2SK2691(60V, 70A)を使うことにした。この際右chにも新出力制限保護回路を導入したが、肝心の2SD217はもう無い。もうこの石が手に入ることはないので諦めて2N3055にする。ちょっと気分を変えてRCAの物だ。これはジャンク屋で安く手に入れた中古品。 アイドリング電流は250~300mAに設定する。気温が高いためか、スイッチON時の電流の跳ね上がりはほとんど見られず安定している。この2N3055は、よく言えば明るい音、悪く言えば充実感に欠けややうるさい音だ。

2007/08/11室温33℃。ヒートシンクの温度は50度を超える。右チャンネルは特に熱くなり、55度になる。
どこまで上がるのか部屋のエアコンをつけずに長時間運転してみた。じわじわと65度に達し電流は1Aを越えてしまった。明らかにサーミスタの温度補償が不足している。しかし2N3055は簡単に壊れない。




2015年8月7日金曜日

真空管DCパワーアンプ


真空管DCパワーアンプ
(No.193)
無線と実験2007/7&8

(完成:2009年8月12日)
初段:404A/定電流2SC1775A
2段目:2SA1967/定電流2SC4578
終段:6C19P-Bパラ
電源:+200V/-16V(初段)、+200V/-330V(2段目)、±160V(出力段)

All TubeのDCアンプ。Tr.アンプに劣らず緻密な音を出す。OTLだが安定している。

電源は別シャーシ。GZ34、6BY5Gの整流管を使用。




真空管DCパワーアンプの製作 
(MJ誌 2007/7&8 No.193 参照)


2009/3/1
6C19Pを使ったAll Tubeアンプを作りたい。2008/11の金田アンプ視聴会で聞いた6C19PマルチアンプはTr.アンプに劣らず緻密な音を出す印象を持った。DACを使うようになってソースの純度が上がると音の出口を作るパワーアンプの質が気になってきた。音源によっては硬い音になってしまうのだ。終段に使っているTr.に限界を感じる。今の時代にはTr.はいい物がもう手に入らないのだ。しかし真空管ならまだあるだろう。 手持ちの部品を活用して作ってみよう。

1.構想
6C33C-Bハイブリッドアンプは以前つくった。重厚な音ではあったが発熱が多くて使いにくい。気軽に聞けるアンプではなく結局使わなくなってしまった。この球はもう使わないと決めた。6C19Pならコンパクトで使いやすそうである。6C33C-Bハイブリッドアンプの電源部品を活用してコストを抑えよう。

参照記事は2007/7&8のWE421,6C19P真空管DCパワーアンプとする。初段のゲインを高めた設計だ。また、真空管のピンに直接半田つけするソケットレスとなっている。
手持ち部品の流用を考慮して初段はWE404Aとする。404A6C19Pの組み合わせは「オーディオDCアンプ製作のすべて下巻」に掲載されているが、初段へのゲイン配分が低い昔の設計だ。 電源はコストがかかる部分だ。終段の±160Vは6C33C-Bハイブリッドのトランスとブリッジダイオードとフィルタコンデンサが使える。タイマー付き保護回路もそのまま流用する。ドライブ段他の電源は別トランスで+200V/-330V/-16Vを作る。整流管を使いたいので+200VにはGZ34を、-330Vには6BY5Gを使う(WE412Aは値段が高すぎるので敬遠した)。



2.ブロック図




3.回路図

● パワーアンプ回路

 初段はC3gの代わりに404Aを用いる。Rpは記事どおり7.5kΩとするがIp=10mAにするとRpでの損失は0.75Wになる。スケルトン抵抗はコストが高いのでニッコーム1/2Wで対応したい。WE421Aパワーアンプ(No.177)に倣ってIp=6mAにしよう。
2段目は記事どおり2SA1967とする。初段でゲインを稼ぐ一方、2段目はゲインが少ない。これについてはMJ誌2004/4のp47を引用すると、「2段目は差動アンプといっても2SA1967のhFEは20前後ときわめて小さく、しかもエミッタに帰還抵抗820Ωを入れた電流帰還動作である。アンプというよりは電圧、電流変換と電流伝達作用が主な働きだ」と説明がある。
2段目の定電流には手持ちの2SC4578(Vcbo=1700V)を用いる。終段6C19P-Bのグリッド直列抵抗の100Ωはスケルトンが指定されているがコストアップになるのでニッコーム(1/2W)に変更する。MFBの可変抵抗は記事どおりつけておく。
AOCのカスコードTr.には安価でありそこそこ高耐圧の2SC2230A(Vcbo=200V)を用いた。
 
● 電源回路 / 保護回路

+250V/-330Vには特注Rコアトランスを使用。 GZ346BY5Gのヒータにはそれぞれ6.3V(1A)の巻き線を使う。ヒータ定格は1.6Aなので電圧降下をあとで確認しておこう。+250Vの平滑コンデンサ1000μFは160V用なので2個直列にして耐圧を稼いだ。それぞれのコンデンサに均等な電圧がかかるように1MΩをパラに抱かせた。-16Vは12Vの独立巻き線を使う。平滑コンデンサ4700μFはBlackGateが欲しいが入手不可。終段用±160Vは別トランス(HB-40)から得る。保護回路はMOS-FET(2SK851)を使った遮断スイッチであるとと共に、電源投入時の時限スイッチとしても動作させる。時限動作にはタイマーリレー(松下CDX-2C-180S-100VAC))を使う。この保護回路を時限スイッチとしても使うアイディアは6C33C-Bバイブリッドアンプ(2005年11月作成)を作ったときに思いついたもの。その後2006/11発表のNo.190で無接点のスイッチとして同じアイディアが使われている。「必要は発明の母」とはよく言ったものだ。6C19Pのヒータは8本分の直列に50.4Vを供給する。

● レギュレータ(+200V)回路

記事どおりの回路だが、誤差アンプの真空管に5702WBをつかった。たまたま一本手持ちがあったためである。出力Tr.の2SC1161は入手難なので、メタルCANの2N4240 (Vcbo=500V, 2A, 35W)で代用する。



4.部品調達
● 真空管
404Aは昔買ったペア測定品。6C19P-Bは通販で10本購入。店によっては2k\/本するが、1k\以内で売っている店をネットで見つけた。メールで在庫確認したら速攻で返信あったのでその日に注文した。届いた球はメーカ不詳だが、6C19П-Bと書いてある。9の次はnではなくロシア文字(キリル文字)であり、英語のPに相当するらしい。
6BY5Gも通販で入手した。USA製のPHILCOというメーカのもの。リブランド品かもしれないが。




● 404Aのペア選別
ソケットレスなので作ってしまうと差し替えが出来ない。ペアが取れているか確認した。2本一緒に同一のグリッド電圧をかけてプレート電流の差が少ない組み合わせを選ぶ。グリッドの直列抵抗100Ωは、これを入れていないと突然プレート電流が増える現象が発生する。 Ip=5mAでの2つの404Aのプレート電流差は0.6mA程度であった。
(測定回路) 





5.製作

5.1 基盤製作

● 初段基盤 
404Aが入る穴は10mmホールソーであけて、リーマーで広げる。ホールソーは中心位置がピタリと決まるので有用だ。オフセット調整用のVRはサポートを使用せず基盤の穴に普通に固定する。うまい具合にトリマーねじの位置が2つの404Aのほぼ真ん中に来る。
樹脂サポートの高さは10mmが良いが手持ちの15mmを使うことにした。
2009/3/29




● 2段定電流回路基盤
Io調整用の半固定VRは15mm樹脂サポートに接着し、リードは7本より線で延長する。

●+200レギュレータ基盤
5702WBは背が高いので基盤に本体がピッタリ通る穴をあけて通す。プレートのリードは他に接触する事故が起きそうなのでテフロンチューブを被せた。 (基盤配線図)




●AOC (Auto Off-set Control)基盤
2.2μFが大きいので配線面を上にして固定するためには25mmの基盤サポートが必要。
(基盤配線図)


●6C19P出力段基盤
6C19Pが入る穴は10mmホールソーであけて、リーマーで広げる。基盤と6C19Pの間には4箇所にエポキシでスポット接着する。ピンにはめっきがしてあり半田の乗りは良い。
 


5.2 ケース加工

●パネル
フロントパネルにかっこよくレタリング文字を入れたい。白文字のインスタントレタリングを使うのが最良だが、PCの好きなフォントで印刷した文字を使いたい。水転写シートにインクジェットプリンタで水色文字を印刷して貼ってみたが、黒いパネルではぜんぜん目立たないのでだめだった。インクジェットでは白系の色が出ないので無理だ。そこで思いついたのが「プリントゴッコ」の利用。これはシルク印刷の原理だ。インクさえ良いものがあれば金属にも印刷できるはずだ。さて10数年ぶりに押入れから出してきたプリントゴッコの箱にはまだランプやマスターが残っていた。しかし、白インクがやや硬くなっていた。仕方ないので新しいものを買ってきた。インクやマスターはまだ東急ハンズで売っていた。(「プリントゴッコ」本体は既に数年前に製造が終わっている)

文字フォントはOld script(http://www.dafont.com/search.php?psize=m&q=Old+script)を使った。レーザプリンタで印刷したものがそのまま原稿になる。マスターに焼いてインクをのせれば準備完了。
安易だが、パネルの上にマスターをのせて上からクレジットカードでスクイージすると・・・・ なんとか印刷できる。油性インクなので金属上でもはじけることなく定着してくれそうだ。

 



 

かなり長い時間放置していたが、このインクはいつまでたってもベタベタしている。やはり金属面への印刷には無理があるようだ。アクリル系のクリアスプレー(つや消し)を上からかけて仕上げた。

●天板
天板の真空管を通す穴はΦ25のシャーシパンチであけた。アルミ材2mm厚をシャーシパンチで加工するのはかなり大変だ。皮手袋は必需品だ。放熱の穴Φ7はドリルの刃をΦ2から始めて1mmずつ大きくしていくのがベスト。手間はかかるが、バリも少なくて仕上げが楽になる。仕上げはΦ10のフリードリル刃で軽く面取りする。


5.3 配線



初段の調整中に気づいたが、ケースがGNDに導通している。原因はSP端子だった。パネルの貫通穴の径が小さすぎて、端子のねじ部とパネルが接触していた。径を少し大きくして、ねじ部にはスケルトン抵抗のガラス繊維被服をかぶせた。




5.4 電源部分
電源は6C33C-Bハイブリッドパワーアンプをつぶしてシャーシと共に電源トランス・フィルタコンデンサを流用する。ドライブ段用電源トランスを追加する。Rコアトランスは不恰好だが親亀小亀のように並ぶとちょっと滑稽だ。2本の整流管は左右に配置。オクタルソケットが取り付くようにアルミのプレートを作った。ソケットの穴Φ28は糸鋸(コッピングソーテーブル)で切ってリーマーで仕上げた。

 
↑6BY5Gの姿が頼もしいが全体から見るとちょっとバランスが悪い。


6.調整
2009/8/8
左Chの調整。SP端子には8Ωのダミーロードを接続する。終段上下のグリッド抵抗の電圧を測るためにテスターをつなぐ。電源を入れると+200Vはゆっくり立ち上がる。終段グリッド抵抗の電圧が揃うようにバランスVRを調整する。-47V位でほぼ上下均等になるが、時間とともにかなりドリフトする。これを補償するのがAOCだがちょっと不安。終段の-160V配線の間に電流計をつなぐ。電源にタイマーリレーを挿入して、SP端子のダミーロード両端にもVo計測用のテスターをつなぐ。タイマーはとりあえず1分に設定。電源投入後、タイマーリレーが動作すると終段に電流が流れ出す。電流計はすでに100mA以上を示している。Voは10mV程度に収まっている。バランスVRを動かすとVoは多少少なくなるがAOCの働きでゼロには定まらない。Io調整用のVRは左いっぱいだが150mA程度流れている。時間とともにIoが増えるようであればVRのシリーズ抵抗(2.2kΩ)はもう少し大きな値に変更する必要があるだろう。終段のグリッド抵抗の両端電圧は47Vである。

2009/8/12
右Chの調整。Io調整用VRが左いっぱいの位置で終段グリッド抵抗の電圧は約-60Vでバランスする。しかし左Chに比べて不安定だ。電源を入れてから落ち着くまでに1分以上かかる。404Aのウオームアップ特性が違うのだろうか。タイマーリレーは2分にセットした。Ioが130mAになるように調整した。時間とともじわじわと上昇するがだいたい安定している。このときの終段グリッド抵抗の電圧は約-55Vとなった。
左ChのIoを確認すると200mA以上になっていた。Io調整用VR左いっぱいで絞りきれないので、VRのシリーズ抵抗2.2kΩを2.7kΩに取り替えた。

↑調整中の右Ch。グリッド抵抗の両端電圧を測る。±160Vの結線は外しておく。

7.完成
2009/8/12
タイマーリレーの動作時間2分はかなり長く感じる。ケースの温度は60度くらいに達しているだろうか。夏場は部屋の冷房が必要だ。
音は柔らかいようで硬い。中低音はよく出る。高音は派手ではなく、抜けが悪い感じがする。Tpが飛んでこない。それでもCDを聞いていると耳が痛くなった。滑らかな感じがしないのでひずみが出ているのかもしれない。ステップ位相補正のCを調整したら良くなるかも。もう少し聞いて耳を慣らしてみよう。
2009/8/14
ステップ位相補正の39pFに手持ちの20pFをパラ接続した。高音が多少滑らかになった。

 
↑6C19Pはプレートの間からヒータの明かりが良く見える。

↑電源シャーシの上にアンプ本体を重ねて置くことが出来ないので棚の下に置く。